日々、一生懸命練習していても、本番でうまくいかなかった経験は誰にでもあるでしょう。人前は誰でも緊張するものですので、絶対ミスをしない方法はありませんが、それでも本番でなるべくうまくいくように調整していきたいものです。曲が仕上がってからの本番に向けた練習方法をご紹介します。
1.本番で落ち着いた演奏をする為に
何事においてもいえることだと思いますが、本番だけきちんとやってうまくいくことはありません。一生懸命練習して、その結果、本番でよりよい演奏ができるのです。本番のときは、いつもと違うことをしようとしてはいけません。普段の練習と同じように演奏することを考えます。そうすると余計な力が入ることもなく、落ち着いて演奏することができるでしょう。
- 舞台に立ったら一度観客を見渡し、ゆっくりとお辞儀をする
- 椅子に座ったら、膝に手を置き、深呼吸をしてから演奏を始める
- 終わるときは慌てずに、最後の音まできちんと伸ばし、ゆっくり手を離します(曲によります)
- 演奏後、膝に手を置き、ゆっくりと立ち上がること
本番が近くなってきたら、本番を想定した練習で、演奏前のお辞儀から演奏後のお辞儀までを繰り返し行ってください。この練習を怠ると、いざ本番になったとき、迷いが生じたり不安になったりするものです。演奏の練習とともに、舞台での振る舞い方も大切なのです。
2.本番でミスを減らすための練習
2-1 ゆっくりと小さな音で練習する
演奏の練習では、特に初めて演奏する曲の場合、より自然に、余計な力を入れず、音の間違えをなくすために、非常にゆっくりと、少し小さな音(※1)で練習するとよいでしょう。絶対に音を間違えない演奏ができるスピードです。ただし、音の長さやスタッカート、強弱やフレーズなどは、ゆっくりにしても変えてはいけません。そして、ゆっくりしたペースにしたことで余裕が出た分、肩や手首に余計な力が入っていないか、肘や手首の位置、指の形などが自然かどうかを確認していきます。本番前は、難しい曲であるほど、無理に速さを保とうとして力が入ってしまうことがあります。その状態で本番に臨んでも、きれいな音を出すことはできないでしょう。これまで一生懸命練習した成果を確認するうえでも、ゆっくりとしたペースで練習してください。
少し音を小さくして練習することは、練習をやりすぎて、指に過度な負担を与えてしまうことを防ぐ目的もあります。
本番を想定した練習と小さめの音でゆっくりと演奏する練習を中心として徐々に本番と同じ速度に安定させます。一か月ほど前から本番と同じ音の大きさを出す練習を増やします。大きな音は、疲れてくると雑になりやすいものですので、実力に合わせて回数を調整します。無理のないようにすることが大切です。こうすることで、考えすぎて演奏が崩れることも、本番でいつもと違うことをやって失敗してしまうことも少なくなるでしょう。
- ※1 幼児から小学校低学年にかけては、広い会場でも通用するよう大きな音を出すことを意識させる必要があります。まだ、力が足りずに大きな音が出ていないのかどうかを見極め、乱暴にならずに大きな音を出す練習をよくするとよいでしょう。練習の段階で小さい音を弾く子は、本番でさらに小さな音を出してしまう傾向があります。手首の力を抜いて、手や腕の重さを使った自然な音だしができれば、大きい会場でもきれいに響く演奏になります。
2-2 メトロノームに合わせて練習する
たくさんの練習を重ねていると、苦手な部分をゆっくり弾いてしまったり、力を入れてしまった乱暴な演奏になってしまう部分があります。気になっていても、そのままにして、改善するタイミングを逃してしまうことがよくあります。
その時は、メトロノームを使い、自分のペースではなく機械のペースに合わせて練習するようにするといいでしょう。苦手な部分でなくても、得意な部分で速くなってしまうとか、静かに演奏するところで、速度まで落としてしまうなど、意識していない部分でも改善点が見つかることでしょう。
拍子はなるべく設定すべきですが、曲が複雑になると拍子が変わることも速さが変わることもありますので、工夫して練習するようにしましょう。
2-3 目を閉じで練習する
ピアノは、「動作を記憶」することも重要な練習です。「意識している」状態で、鍵盤の距離を瞬時に的確に判断するのは困難です。無意識で演奏できるようにするわけですが、鍵盤を見ながら練習している見ていないと次に弾く鍵盤がわからないことになります。ピアノは、両手を使います。もしいつも右手を見て演奏している部分で、急に左手の音を確認したくなった場合、左手に目を向けた瞬間、右手を間違えてしまいます。本番では、緊張していますので、普段考えていないことが気になることもあります。それでも動作で記憶していれば、持ち直すことができるわけです。
この動作を覚える中で、一番基本的なことは、「指番号を守ること」です。ある程度難しい曲をやっているのであれば、必ず楽譜に記載された指番号を守らなければいけないわけではありませんが、毎回指番号を変えて演奏してはいけません。本番でミスを誘うことになりますし、運が悪い場合は、どこの鍵盤を押すか忘れてしまうこともあります。本番中に迷うリスクを極力なくすためには、指番号を安定させることが重要です。
次に記憶すべき動作は、音程の広い跳躍進行です。目で鍵盤の位置を確認していると、緊張で迷いが出たときでも自然と指が正しい鍵盤に向かってくれます。和音が続くようなフレーズも重要です。
長く複雑な曲であれば最初から最後まで目をつぶって演奏するのは難しいかもしれません。しかし、上記を参考にしながら忘れやすい部分や苦手な部分をピックアップして練習してください。すると「動作の記憶」だけではなく、技術の向上、音での記憶にも効果が出ているのがわかることでしょう。
指遣いに関しては、こちらの記事でも解説しています。
2-4 音名で歌う、コードネームを言いながら演奏する
フレーズ感を養うためには、音名で練習するよりも「鼻歌」で歌いながら演奏すると効果的ですが、「暗譜」もしくは「ミスを減らす」という観点でみれば、音名で歌うことが大切です。特に、音がなっても何の音かわからない方は、鍵盤も何の音を弾いているのか把握しないまま「動作の記憶」だけで弾いている場合があります。
ピアノは、たくさんの音を同時に奏でるため、鍵盤の場所を把握することにしか気が回らず、音名を意識しないで練習している方がいます。しかし、それでは耳が育ちませんし、記憶の曖昧になり、少し練習しない期間があったり、たくさんの曲を演奏しなければいけないときに、音符が飛んでしまうリスクがあります。
さらに余裕があれば、コードネームを言いながらの練習をするとよいでしょう。和音こそ、動作で覚える省庁の様なものです。というのも、同時に弾くわけですから、鍵盤を考えながら弾いている暇はありません。指が自然とその形になるように練習をしているわけですから、音名で把握していない方がいます。複雑な和音であっても、構成音を思い出せる為、不安がなくなりますし、忘れてしまいそうになっても、記憶を呼び戻しやすくなります。
2-5 メロディー、ベース音のみを抜き出して演奏する
どんなに音が多く、難しい曲であっても、骨格はシンプルです。和音の連打であっても、軸になるメロディーがありますので、そこだけを抜き出し演奏してみましょう。非常にシンプルで覚えやすいと思います。複旋律の場合は、一つずつ取り出して演奏します。この練習は、暗譜の助け、ミスを減らすとともに、フレーズを出す練習、すなわち、表現を出す練習になります。複雑な和音でもメロディーのラインはよく聴こえるように浮き立たせなければいけません。和音を覚えるだけでは、メロディーを意識がおろそかになり、妥協してしまうのです。しかし、メロディーだけで練習すれば、メロディーが浮き立っていないことが気になるようになります。その意識がとても大切です。
ベース音、要するに一番低い音は、和音の基本になっています。さらにいえば、曲のイメージの基本です。このベース音を抜き取って、アルファベットで読んでいけば、和音が思い出しやすくなり、曲の雰囲気の流れもつかみやすくなります。
メロディーとベース音を別々に練習したら、今度は同時に練習してみましょう。メロディーとベース音の流れが理解でき、さらに左右のボリュームのイメージも湧きやすくなります。ピアノを演奏するなら常識ともいえる左右のバランスの重要性を意識しながら、拍子感(ノリ)を出し、音楽を表現していきましょう。シンプルなラインで、曲の流れ、記憶の定着や左右のバランスがうまく取れれば、曲の完成度がさらに増すことでしょう。
2-6 移動ドで歌ったり和声を分析して、音の役割を確認する
全調メソッドは、ピアノ学習の初期の段階から様々な調の曲を弾くピアノ教育法です。しかし、基本的には、初期の段階では、ハ長調を中心として、シャープやフラットの少ない調で学んでいる方が多いと思います。同じ曲があっても、調が変われば、その曲の印象も変わるのは不思議です。和音を変えているわけではないのに、少し落ち着いた感じを感じさせたり、明るい印象になったように感じることもあります。
しかし、現在使われている音階は、平均律と言われる、1オクターヴを均等に割ったものが使われています。要するに、移調しただけでは、基本的に音の高さが変わるだけなので、和音の響きとして感じる印象は変わりありません。
ハ長調で学習している場合の多くが、「ドレミファソラシ」の音のイメージがついています。個々に抱くイメージは違うかもしれませんが、その印象がハ長調で担当している「役割」になります。これが、調が変わるとどうでしょうか。基準になる音が変わるわけですので、ハ長調で抱いていた違う役割をそれぞれが担当します。例えば「ハ長調のド」と「ヘ長調のド」では、同じ音なのに担っている役割が違うのです。ですから、同じ音でも印象が変わってきます。
和音も同じことです。和音の場合は、人間でいうと「キャラクター」です。個々の音の役割とは、分けて考えることにします。人が家、学校、職場で、キャラクターに違いがあるように、和音も、調によってキャラクターを使い分けています。例えばCコードの場合、ハ長調では、安定感のある落ち着いたメインキャラクターであるのに、ヘ長調になると安定しているコードにバトンを渡したがるサブキャラクターに変化します。
シャープやフラットが増えると暗譜が苦手になるのは、音の役割や和音のキャラクターを理解していないことが原因の一つとなります。
音の役割を把握するのに有効な手段としては、「移動ド」で歌うことです。その調の主音を「ド」にして歌う方法で、たとえば、ヘ長調の場合、「ファ」を「ド」として歌います。恐らくヘ長調やト長調は、比較的簡単にできると思います。それは、初級の段階でもよく出てくる調だからです。これがシャープやフラットがたくさんある調では言えますか。きちんとその曲の音の役割を理解しているのか確認してみましょう。
和音の場合は、スケール上にできる和音をⅠ(いち)から順番に当てはめます。和声の学習をしたことがなければ非常に難しいので、少しずつ学習して、把握できる和音キャラクターを増やしていきましょう。
2-7 イメージトレーニングをする
ピアノを使わずに、指も動かさずに、弾いている鍵盤までしっかりイメージしましょう。イメージできないというのは記憶が中途半端です。これはシンプルな方法ですが、非常に強力です。難しければ左右別々にイメージします。それから両手でもイメージできるように練習しましょう。まだ練習の段階でよく引っかかるところはイメージも鮮明ではないはずです。
初期の段階では指を動かすのもいいでしょう。テーブルをたたく方法と、エアピアノとでもいうのでしょうか、空中で指を動かすのもそれぞれ指を可動範囲を広げ、指を強く、なめらかな動きをする助けになります。ただし、本番前近くは、あまりお勧めしません。なぜなら、鍵盤の幅を間違って記憶するかもしれないからです。せっかく目をつぶって練習して、距離感をつかむ練習をしても、テーブルピアノやエアピアノで、その距離感を曖昧なものにしてしまってはもったいないと思います。また、ピアノを弾いた時の感触も変わってしまうことがあり、ボリュームの操作ができなくなる可能性もあります。慣れていれば話は別ですが、まだ慣れていないと言うことであれば本番前は、指を動かさないイメージトレーニングにしましょう。
なお、自分の演奏を録音すると、頭の中にイメージしやすくなります。自分がどんな演奏をしているのかもよくわかりますし、改善点も見えてきます。ぜひ活用しましょう。
録音についてはこちらはこちらの記事も参考にしてください。
2-8 家族、友達の前で演奏する
人前で演奏するのと一人で練習しているときのギャップをなくすことが大切です。家族や友達の前で、集中して演奏ができないようでは、本番で落ち着いた演奏ができるとは思えません。恥ずかしがらずに、お辞儀から一通りの流れで練習をしましょう。もちろんリハーサルを行なう場合は、必ず参加するようにしましょう。
3.まとめ
- 最初のお辞儀から最後のお辞儀まで、本番を想定した練習を繰り返し行う
- 自分が一度も間違えないで弾ける非常にゆっくりした速さで、音の長さやフレーズをきちんと意識して繰り返し練習を行う。
- 少し小さめの音で、力を抜き、リラックスした状態で練習すること
初心者から上級者まで、効果的な練習になることでしょう。回数をただ増やすのではなく、集中力を保っていることが大切です。ぜひ、参考にして、自分にあった調整方法を見つけてください。